安倍晋三が大統領に就任もしていないトランプに会いに行った件で、佐藤優が厳しく批判している

このなかで佐藤はこう言っている。

11月9日の11時過ぎに鈴木宗男さんから電話がかかってきて、「大変だと。安倍総理が怒り心頭に発している。その前日に外務省の杉山事務次官が安倍さんのところへ行って「外務省の方で調査しましたが、われわれの分析でヒラリー・クリントンが逃げ切ります、大丈夫です」という報告をしたですよ。そうしたら蓋が開きかけたら違うじゃないかと。もう外務省の話は聞かないでいい。CNNとNHKで判断するからという状態になっているということで、いま外務省がビビリ上がっている。

安倍晋三は9月20日にニューヨークでヒラリー・クリントンにだけ会っているわけだが、つまり外務省も官邸もなんのリスクヘッジもせずにヒラリー当選を勝手に決め打ちし、その路線でTPPを始めとする国内の政治日程もすべて固めていたわけだ。おそらくヒラリーが当選すればTPPについては何らかの心変わりがある感触もあったのだろう。

ところが結果はトランプ当選。これでパニックになった安倍がトランプに会いにいくと言い出したことを止められず、就任前の大統領にゴルフのパターを持参して会いに行くという、およそ前代未聞の恥さらし行動をしたわけである。

で、ここからが本題なのだが、トランプ当選が決まった翌日の日経朝刊の2面から5面までは以下のようになっていた。

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もちろん1面も大統領選で以下5面まで、4面以外は大統領選の記事で埋め尽くされている。
しかし4面にはなぜか通販の全面広告が!?
2-3,4面を見るまでもなく、通常、ここらへんに入るのは出版社の広告が普通である。ところがいきなり通販。
これは女性ファッション誌で言えば、本来、ルイ・ヴィトンやシャネルといった外資系ブランドや資生堂などが入る最初の見開き部分に美容外科の広告が入っているようなもの。本来あり得ない面付けである(通販や美容外科の広告が悪いと言っているわけではない。しかし媒体社の広告担当者というのは、外資系ブランドや国内大手クライアントと通販や美容外科クライアントを非常に「区別」する体質の持ち主なのである)。

ということは当然、何らかの掲載事故が起きたことは広告関係者なら誰でもわかることで、おそらくここにはヒラリーが当選すれば「ヒラリー本」が満を持して広告掲載予定だったのだろう。そしてその本は↓だと思われる。

「ヒラリー新政権」の新刊書、トランプ氏勝利で幻に(朝日新聞デジタル)

読売は外務省と同じく(というより外務省がそう言っているから)ヒラリーの当選を信じて疑わず、この本を全力で作り、そして大統領選の結果が出る翌日の広告スペースをおさえた。しかもここに5段広告(1面の3分の1)ではなく15段広告(全面広告)を入れようというのだから、広告効果は抜群だが、一方で編集からはこの面を丸々1ページ使えないことに対するクレームも当初は出ただろう。にもかかわらず、わざわざ1面を開けたのは、もちろん広告掲載料を満額でいただくためで、これにって編集を懐柔したはずだ。

ところがまさかのトランプ当選に、広告の現場は大混乱に陥ったものと思われる。
まず、本当に読売はこのスペースに予定通り出稿するつもりがあるのかないのかの確認。これは読売もギリギリまで引っ張ったはずだ。
ただ、日経の広告現場として気が気でなかったのは、これがドタキャンになった場合の代わりの原稿を用意していなかったことにある。つまり日経側も100%ヒラリーの勝ちと踏んでいた。そうでなかったら、ここに通販広告が掲載されることはあり得ない。

もちろん日経の広告担当者だって「本当に大丈夫なのか?」と思った人間はいるだろう。が、その声は「トランプ当選なんてバカなことがあるわけないだろ!」という社内の声にかき消され、「せっかく読売がドカンとカネを出してくれるんだからやろうじゃないか」ということになったのだと思う(あくまで想像だが)。

しかし最終的に読売は広告をキャンセル。現場的には「読売が恥をかこうがなんだろうがそんなこと知ったこっちゃないから掲載しろ」という気分になるだろうが、「とにかくカネは出すから掲載は勘弁してくれ」と読売から泣きが入り、さらに上層部のルートで言われたりすれば仕方がない。

こうなるとあわてて代わりの原稿を探さなければならない。が、5段広告であれば簡単に見つかっても、15段の広告原稿となるとそうそうあるものではない。しかも4面掲載に耐えうる原稿となるとさらに少なくなる。
クライアントを探して連絡しても断られたり、あるいはつながらなかったり……。かといって自社広告を作っている時間もない(これも5段だったらできたかもしれない)。
結局、15段原稿を持っていて、すぐに掲載OKが取れるクライアントは通販会社しかいなかったのである。

一方、お声のかかった通販会社からしてみれば、これは忘れていた宝くじに大当たりしたようなもの。普段は高飛車な媒体社が土下座せんばかりに原稿を貸してくれというのである。
以下、日経と広告代理店の会話(あくまで想像)。

日「実は突然、明日の朝刊4面の15段があいちゃって原稿を探してるんですよ」
代「ええっ、それは大変ですね。だけどその面に掲載できるようなクライアントはうちにはないですよ」
日「いや、だから通販でもいいんです」
代「ホントですか? いいんですか? だったらすぐにお得意に案内しますけど、でも料金はどうなるんですか?」
日「それも今回はもう特別でいいです。掲載料自体は落ちたところからもらいますから」
代「時間がないけどメチャメチャにいい条件じゃないですか? だったら見つかると思いますよ」
日「ただとにかく時間がないんです」
代「とすると(すでに出稿して)流用できる原稿がいいですね。すぐにお得意に電話します」
――しばらくして
代「お得意から了解が取れました! 〇月〇日の原稿をそのまま流用してください。料金もちょっとだけ高めに言っておきましたから(※代理店もマージンを取れる大チャンス)」
日「ありがとうございます。助かった……」

それにしても、日本屈指の新聞社が揃いも揃ってトランプ当選のリスクも考えずヒラリー一本槍で突っ走ったわけで、その姿は安倍が選挙前に当選を信じてヒラリーに会いに行った光景とオーバーラップする。そしてこの両者とも、要するに外務省の言うことを信じ込んでいたということだろう。
つまり読売も日経も外務省取材には長けているのかもしれないが、独自に情報を積み重ねて分析することなどまったくできないのである。今回、そのことが一本の通販広告で露呈してしまった。
メディアが権力の監視どころか権力と一緒になってズッコケているのが、日本のジャーナリズムのお寒い現状ということである。

※最後に
代わりに出稿したクライアントさんは良かったですネ! 普段では考えられないような前付で、さぞかし高レスポンス、費用対効果も抜群だったことでしょう! なぬっ? 大して変わらなかった???