以下に記すことは出版業界ではすでに常識なのかもしれませんが……。

しばらく前にiPadPro9.7とApplePencilを購入しました。
実はiPad Air2とずいぶん迷ったのですが、ApplePencilを使ってみたいという気持ちが勝ってProにしたのです。
といって絵心があるわけでもなく、ApplePencilをどう使うかについては深く考えていなかったため、当初はやや放置し気味だったのだですが……

私は現在、小さな業界誌に連載原稿を書いています。作業の流れとしては原稿を送るとゲラのPDFが送られてくるので、これをプリントアウトして赤字を入れ、ドキュメントスキャナーでPDF化して送り返していました。

ところが、先月は送られてきたPDFをiPadにダウンロードしてこれをGoodNotesというアプリで読み込んでApplePencilで赤字を入れたのですが、これがまったくもってストレスフリーであることに驚きました。

確かに9.7インチだと画面は小さいけれども、文字は十分に読めるし、読みにくければ拡大すればいい。

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赤字を入れる時にはさらに拡大。

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ここで便利なのは、紙で仕事をする時に文字色を変える場合、ペンを持ち換える必要があるけれども、iPadでは画面上のペンツールの色を変えるだけでOK。
しかもApplePencilの精度が驚くほど高いので、まったく普通のペンで赤字を入れるのと同じ感触で文字を書き込むことができます(むしろApplePencilの方がいい)。
そして間違った場合、消しゴムツールを使用しても、PDFの文字部分は消えません。
これまではA4紙に見開き単位で出力していたのですが(プリンターの限界がA4なので)、実は用紙が小さくて多くの赤字を入れるのは大変だし、ゴチャゴチャと汚くなってしまっていました。が、そういう心配もなくなります。

校正が終了したらPDFで書き出してメールで送信(私の場合はDropboxに保存してから)。
ということで、まったくのペーパーレスです。

といってもこれは4、5ページ分の作業なので、たとえば本一冊分だとどうかという話になりますが、その後、校正の仕事ではありませんが、電子書籍を制作するための入稿指定を本一冊分、同じ方法で行ないました。これは紙の本の校了紙PDFに電子書籍用の指定を入れるのですが、仕事をいただいた版元様からも「この方法でまったく問題ない」と言われました。

したがって、書籍一冊分の校正でもこの方法でまったく問題ないものと思います(完全に校正などの仕事に特化して使用するならiPadは12.9インチの方がいいでしょうが、その他の使用を考えれば9.7でも十分です)。

出版社というのは、書籍を作る際には非常に多くのゲラを出します(最近はそこまでではないのかもしれませんが)。しかも初校、再校、三校、念校……と何回も出すわけで、そのたびに実は結局、誰も見なかったゲラが机の上に積まれてメモ用紙になっていきます(子どもが小さかった頃には、このゲラを持ち帰って落書き用紙にしていました)。
そういうムダなゲラを出す必要がなくなりますし、たとえば在宅の校正者にも発送する必要はありません。

また、雑誌の場合も文字校正だけであれば、このフローで問題ありませんし、完全に自宅で作業することができます。
雑誌の場合、たとえば週刊誌のニュースページであれば、特殊な時間に出社してゲラの出校を待ったりしたものですが、そういった必要がなくなるでしょう。
概して雑誌の校正は非常にムダな待機時間が発生しますが(それが残業代になるということはあるのですが)、出校した時点で印刷所からPDFで校正者へメールでゲラを送ればいいのだから、どこにいてもOKです。

印刷の色目に関しては紙で校正する以外にありませんが(写真を多用する雑誌についてはこの部分はとてつもなく重要)、それは校正者でなく編集者の仕事なので関係ありません(ちなみに色についても、紙の校正紙を見ながら修正箇所をPDFに書き入れてメールで送信すればいいことになります)。
ファッション誌などの細かいキャプションなどはiPadで拡大して見れば、より精度は上がるでしょう(電話番号や価格など、重要部分の致命的間違いを犯すリスクも減るものと思われます)。

私が出版業界に入った1985年には、まだわずかながら活版印刷が残っており、本一冊分の原稿を入稿すると一週間ぐらいはゲラが出てきませんでした。
2000年のシドニー五輪の時には週刊誌の編集部にいましたが、この頃やっと雑誌協会で写真のデジタル配信が始まります。しかしそれでもフィルムが中心で、社外に配信写真を見に行って、「これ」と思った写真を申請し後日受け取ったものでした。

また2000年代の中盤頃までの雑誌広告の世界ではタイアップ広告を作る場合、「手書きのラフ」をファックスで送信するという時代がありましたし(その後PDFに代わっていきました)、写真もフィルムで、クライアントに見せる際には、ポジ、レイアウト、原稿の3つを「3点セット」と称してバイク便で送っていたものです(そこで赤字を入れてもらってから色校を出した)。
このような作業フローがほんの何年かでガラリと変わってしまいましたが、さらにApplePencilの登場で出版制作の現場もさらにどんどん変わっていくのでしょう。
デジタル技術の進歩の凄まじさを改めて実感した次第です。

なおApplePencilでの校正作業で感じたデメリットは一つだけでした。
それは、最初は書き心地があまりにもいいので、文字をたくさん書いてみたくなる=赤字をたくさん入れてしまうということなのですが、これは慣れるとともになくなっていくのかもしれません(自分の原稿の場合、赤字をたくさん入れることは原稿を良くしようという行為なので悪いことではありません)。

GoodNotesに対する希望も現時点で一つ。PDFのスクロールが左開きにしか対応していないようなので、これを右開きも可能にしてくれれば、ゲラと同じ体裁でページをめくることができるのですが、私は現在までその方法を発見できておりません(ご存知の方がいらっしゃればご教示いただければ幸いです)。ただし、それ以外は「こういうことができるといいナ」と思うことについて、ほぼすべてができると思います。