以下は最近読んだ今野浩著『工学部ヒラノ教授のアメリカ武者修行』からの引用である(太字部分は引用主)。

 アメリカ社会は、レーガン時代にある決断を下した。 “残念ながらわれわれは、3億人の国民のすべてを豊かにすることは出来ない。すべての人を考えていると、アメリカ全体が沈没する。だから、上位10%(もしくは20%)を優遇して向こう岸に渡ってもらう。そして残りの人たちは、その人たちに引っ張り上げてもらえばいい”と。これがいわゆる“向こう岸理論(もしくはトリクルダウン理論)”である。
 上位10%の人たちのモラルが高ければ、この作戦はうまくいったかもしれない。しかし、彼らの多く(MBAや弁護士など)は、自分のことだけを考える“強欲なビフ”だった。この結果アメリカは、上位1%の人たちが富の40%を保有する、世界一の格差社会になってしまった。

書名:工学部ヒラノ教授のアメリカ武者修行
著者:今野浩
出版社:新潮社(新潮文庫)
初版 :2015年11月1日

レーガンが大統領だったのは1980年代である。
ちなみにヒラノ教授はこの後、さらにこう続ける。

 アメリカ信仰を抱く人達は、「リーマン・ショック」以来、アメリカはビジネス・スクール流の利益至上主義を改め、新しく生まれ変わったという。
 ここで思い出すのが、政治哲学者で「正義論」の権威として知られる、マイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」である。サンデル教授が提起する様々な問題に対して、1000人を超える学生が討論形式で回答を模索する名物授業である。(中略)
 教授の著書『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房、2010)は、日本でもたびたびメディアで取り上げられ、大ベストセラーになったので、ご存じの読者も多いだろう。多くの学生が熱心に“正義”について討議するテレビ番組を見た日本人は、さすがはハーバードと感心したのではないだろうか。
 この授業風景をテレビで見たヒラノ教授は、サンデル教授の教授術に感嘆する一方で、“それでは、あれはどうなんだ”という疑問が浮かんだ。
 サンデル教授の講義は、昨日や今日始まったものではない。サンデル教授は、1980年以来30年以上ハーバード大学に勤めているのだ。
 では10年前、20年前に、この大学から、どのような学生が育ったのか。彼らの中の最も優秀な人たちが、ゴールドマン・サックス、リーマン・ブラザーズ、ソロモン・ブラザーズなど、ウォール街の投資銀行(銀行という名前がついているが、実際は証券会社)に就職したのだ。
 2000年代の初め、ハーバード大学の学部生の8割が、金融機関への就職を希望していることを知ったヒラノ教授は、アメリカは大変な国になったものだと嘆息した。
 ではウォール街の住民は何をしたのか。『ウォール街』など、沢山のハリウッド映画に描かれた通り、彼らは“Greed is good(強欲は善)”の合言葉を口に、“私の利益は私の物、私の損失はあなたの物”とばかり、強欲の限りを尽くしたのである。
 金融工学の入口を勉強した彼らは、専門家の警告を無視して、価格付け不能なCDSやCDOなどの金融商品を売りまくって、リーマン・ショックを引き起こしたのである。
 この事件のあと、ハーバード・ビジネス・スクールは、自分たちの教育方針が間違っていたことを率直に認め、これから先二度とこのような事件が起こらないように、教育方針を改めると宣言した。
そしてそのことを世界にアピールするため、サンデル教授の白熱教室を、その証拠物件として世界に売り込んだのである
(とヒラノ教授は考えている)。さすがは、クレバーで抜け目がないハーバードである。

現在真っ盛りの米大統領選におけるトランプやサンダースの人気も、元を正せばここに行き着くわけで、にもかかわらず日本はアメリカの何十周遅れで同じ間違いをしでかしているわけだ。

もっとも、アベノミクスなるものを実行した結果どうなるかは普通に考えればわかるわけで、だとするとこれを仕掛けた人間は、最初からそれを狙っていたのではないかと私は思う。
なにしろ日本の官僚や政財界の人間はまさに「自分のことだけを考える“強欲なビフ”」なのだから。
ただ、安倍晋三だけは例外で、この男はなにしろ頭が悪くて何もわかっていないから、ただただ「これをやればあなたの名前は歴史に残る」とか言われてリフレ理論を刷り込まれたんでしょうなあ。

しかも問題なのは、日本の場合、アメリカと違って「クレバーで抜け目がない」人材が決定的に不足していることだと思う。

【参考資料】
※野口悠紀雄「インフレ目標2%は達成不可能」(2013年1月)

※さらに野口氏は最近は↓のようなことも。
・野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて(DIAMOND ONLINE)
消費増税延期と法人増税こそ正しい緊急経済対策